■北朝鮮は小泉再選支持?■
【前回の記事から続く。】
この記事はhttp://www.akashic-record.com/y2003/ldppro.html#02に移動しました。
■公明党vs.亀井静香〜自民党総裁選を外から見ると■
【前回の記事から続く。】
03年9月8日に告示された自民党総裁選(投開票は20日)では、元々いまの自民党にはろくな人材がいないため、現職の小泉純一郎総裁(首相)の再選が有力視されていた。
が、総裁選のルールが、01年4月に小泉が初当選したときとは異なっているため、「小泉落選」の可能性があることが、7〜8月から週刊誌等で指摘されてきた。01年のときは、地方の自民党員の一般投票は、各(都道府)県連ごとに開票されて、県内の最多得票候補が、その県連の持ち票3票すべてを獲得する「勝者総取り」方式だった。地方票(県連の持ち票)は全部で(3×47都道府県=)141票あり、01年の総裁選では、小泉は(当時の党員等約240万の)58%の得票で地方票の87%(123票)を取るという「地すべり的大勝」を収めた。
しかも、地方票の開票は国会議員が衆参ともに1人1票で投票する選挙の前に行われたたため、本来なら地方(県連)票(141票)より多数の票を持つ国会議員たち(当時合計346票)が地方の動向など無視できるはずなのにそれに屈し、永田町の「数の論理」では絶対に当選しないはずの小泉が総裁に当選し首相になった、と当時のマスコミは分析した。
【が、「永田町の論理」では、小泉の前任者、森喜朗が首相を辞任することもないはずだった。それが「大衆に人気がない」ことを理由に辞任に追い込まれ、代わって「大衆に人気のある」小泉が浮上してきたのは、直前(01年1月)に発足したブッシュ米共和党政権が、CIAなどの対日工作部隊を日本のマスコミなどに対してフル稼働させたため、と筆者は読み、03年3月17日、小誌Web版で、小泉が自民党総裁選に立候補を表明する前に「1年以内の小泉内閣誕生」を、世界で唯一予言(予測)した(小誌「米国ご指名、小泉首相」を参照)。
小泉政権以前、小渕、森、両政権が橋本派(野中広務元幹事長)の支持を得て「ムダな公共事業」を繰り返して日本の財政を悪化させたのは、日本の国力を衰退させて中国に媚びたいクリントン米民主党政権の不当な「外圧」(内需拡大要求)によるものであり、「米国で政権が替われば、日本も替わる」というのが筆者のヨミだった。じじつ、発足直後からブッシュ政権は日本に「内需拡大」よりも「不良債権処理」による国力の回復(中国の脅威に対抗できる大同盟国の復活)を求める「ありがたい外圧」をかけている。】
01年の敗戦に懲りた橋本派(野中)はその後、同じような、「大衆的な人気」で国会議員票の「数の論理」が否定される事態を防ぐため、総裁選のルール改正を主導し実現させた。まず、地方(県連)の持ち票合計を141から300に増やし(県連ごとの党員数に応じて比例配分)しかも、県内でも「勝者総取り」方式から「比例配分」方式に変えた。
これで(CIAの工作で?)大衆的人気を得た候補が地すべり的大勝をするのは不可能となった。01年の総裁選の結果を03年のルールで見直すと、小泉は300の地方票のうち6割しか取れない計算になる。
もちろん6割取れば「大衆(03年の全国一般党員約140万)レベルで6割もの支持」になるのだから、たかだか357人(03年)しかいない自民党国会議員はそれに従うべきだ。が、もう1つのルール改正により、地方票の開票と国会議員票の開票は03年からは同時に行うことになったので「大衆の人気」に国会議員が影響される機会はなくなった。
これで、橋本派の野中らは、派閥単位で国会議員を集めて「数合わせ」をすれば「小泉おろし」も可能な状態になった。
●だれが株価を上げたのか●
ところが、7月になると、日本の株価が上がり出す。日経平均株価は8月は1万円の大台を維持し、9月になってもそれが続いている。
それまで「小泉内閣になってから株価は下がりっぱなしで日本経済は最悪」なのを大義名分に「小泉おろし」を画策していた野中らの反小泉勢力は、にわかに結束しにくくなり、他方、株価の上昇を受けて(あるいはCIAの工作を受けて?)小泉内閣の支持率は急上昇し、9月にはいると6割前後に達した。
政治をする者にとって、いちばんイヤなのは「不確実性」だ。ブッシュ米共和党政権から見ると、日本は同盟国で大国で、しかも小泉とブッシュの信頼関係が強いことから、北朝鮮政策でもイラク復興支援でも、小泉が再選されたほうがいい。
その小泉が、総裁選のルール改正のため、140万の自民党一般党員が握る300の地方票の「蓋を開けてみないとわからない状況」に怯えている、という事態は、小泉本人以上にブッシュが困る。そこで、ブッシュを支える米政財界の保守本流グループに依頼して投機筋を動かし、一時的に東証株価を上げた、という推理はいちおう成り立つ。
じじつ、マスコミでも7〜9月の日本の株価について「日本企業の業績回復による本格回復」という説と「外国の投機筋による一時的なもの」という説が交錯している。
2つの説のうちどちらが正しいかは、総裁選後に次のようなことが起きた場合には、わかる。
すなわち、再選された小泉首相が、再選で支持してくれた青木幹雄・参院自民党幹事長らに遠慮して構造改革(不良債権処理)路線を後退させ(1)、また、イラクの治安の悪化を理由に自衛隊の派遣をしぶり(2)、他方、10月に自由党を吸収して発足する新しい民主党が「国連決議があればイラク復興支援の多国籍軍に自衛隊も参加する」と宣言し(3)、小泉首相が衆議院を解散して総選挙に打って出た場合(4)だ。
この(1)〜(4)がすべて起きたときに日本の株価が急落すれば、それは米保守本流が、小泉政権より、菅直人(新民主党)政権のほうがいい、と判断して投機筋に日本株の「売り浴びせ」を指示した結果、と解釈できる。
米保守本流は、大統領がブッシュであろうがなかろうが、イラクの復興には(ドイツなどと違ってイラクに欧州統一通過ユーロを持ち込む恐れのない)大国日本の参加が不可欠と思っている。そのためなら、自国の大統領でも日本の首相でも、平気ですげ替えるはずだ。
●ホンネの分析●
9月9日の大手新聞各紙は一斉に、総裁選では4候補(小泉首相、藤井孝男元運輸相、亀井静香元政調会長、高村正彦元外相)が経済政策を争っているなどと分析してみせた。が、「小泉支持派」国会議員のなかには青木に限らず、小泉の「郵政・道路公団民営化」路線に反対の者が少なくないので「経済政策」はただのタテマエにすぎない。小誌は無視する。
代わりに、自民党の外の勢力が(タテマエでなく)ホンネで今回の総裁選をどう見ているか、を取り上げたい。すでに小誌は前回のトップ下のコラムで北朝鮮の小泉再選支持を、また今回はブッシュの小泉再選支持を、いずれも「政治家は不確実性を嫌うから」という理由で予測した。
同じ理由で、小泉再選を強く支持する勢力がもう1つある。
●公明党の解散願望●
それは公明党だ。
いま世界中でいちばん強く小泉再選を願っているのは、公明党だ。理由は、同党は「衆参同日選挙」がいやだからだ。
参議院選挙は来年04年夏に行われることが法律上決まっているが、衆議院の総選挙は首相の解散権の行使により、いつでも可能だ。
もし、今年03年に衆議院の解散がないと、衆議院議員の任期(4年)が来年04年の秋に迫っていることから、「有権者の負担軽減」などの理由で、04年に衆参同日選挙で行われる可能性が高い。
同日選挙になると、当然各党の衆参の立候補者は共同で選挙運動を展開するので、選挙への関心は「単独選挙」の場合より高まり、ふだん投票に行かない人の浮動票まで掘り起こされて、投票率が上がる。公明党はこれがイヤなのだ。
公明党は創価学会を唯一の支持母体とする組織政党だ。このため公明党の公認や推薦を受けた候補者は「雨が降ろうが槍が降ろうが」創価学会会員の票が確実に得られる反面、浮動票はまったく得られない。
これは日本共産党も同様だが、強固な組織政党は投票率が低く総投票数が少ないほど、総投票数に占める組織票(創価学会票)の比率が上がるので有利になる。
公明党公認候補の場合、投票率の低い単独選挙のほうが当選しやすいから、当然議席も増やしやすい。また、公明党が公認候補を立てていない選挙区では、創価学会会員は連立与党の自民党の候補を応援するが、その場合、投票率が低ければ自民党候補の得票に占める創価学会票の比率は高くなり「ありがたみ」が増して、選挙後の公明党(創価学会の池田大作名誉会長)の政局への発言力は、当然増大する。反面、同日選挙になって総投票数が増えれば、自民党の候補者にとっては学会票のありがたみは薄れる。
もし(ブッシュ米政権の「対日マスコミ工作」のお陰で?)大衆的人気の高い小泉が首相なら、自民党は年内(03年中)に衆議院の解散・総選挙(単独選挙)に打って出てもある程度勝てる(少なくとも大敗はしない)と予測できるから、公明党は「03年中に衆議院で議席増、04年には参議院で議席増」とムシのいい計算ができる。
が、反小泉勢力(藤井、亀井、高村)が総裁選の決選投票(地方票300+国会議員票357=657票の1回目の投票で、単独過半数をとる候補がいなかったときに、国会議員のみで行う2回目の投票)で逆転勝ちすると、「大衆的人気」のない候補が当選し首相になるので、衆議院の解散など自殺行為であり、年内の総選挙は不可能。結局、「小泉以外の総裁(首相)なら、04年の衆参同日選挙で公明党は議席減」となる。
じじつ、9月8日の告示直後の、自民党本部での記者会見で藤井、亀井、高村の各候補はみな、年内解散に否定的な見解を述べている。だから、公明党としては「小泉支持」しかないのだ。
●公明党 vs. 亀井静香●
が、それでも、政治家は不確実性を嫌う。
公明党が小泉を支持し、かつて「自民党と公明党のパイプ役」であった野中広務、古賀誠、両元幹事長の「はしごをはずして」権力を弱め、国会議員の数合わせでの「小泉不利」を防ぐことはできても、140万一般党員の投票による300の地方票の行方がまったく読めないことから、公明党には一抹の不安がつきまとう。
そこで浮上してきたのが「小泉首相は、総裁選でも負けたら直後に(首相としての最後の権限を行使して)衆議院を解散する」というウルトラCだ。これについて、亀井は「自分の党から不信任された者が解散権を行使するのは民主主義(政党政治)の否定」「ヒトラーでもやらなかった暴挙」と猛反発しているが、首相の側近で、公明党と強いパイプがあるとされる山崎拓・自民党幹事長が「やるぞ」と漏らして、反小泉勢力を牽制している。
03年9月11日現在、憲法上の首相は小泉純一郎であり、20日の自民党総裁選の投開票で負けても、その時点では単に自民党総裁でなくなるだけで、憲法上は依然として首相だ。だから、負けた直後に衆議院を解散することも憲法上可能だ。
ただ、いくら「合憲」でも「負けて悔しいから解散」というのは、いかにもみっともない。解散すれば、衆議院選挙では自民党は、小泉陣営と反小泉陣営に別れて戦う「分裂選挙」になるが、対する野党では、民主党が自由党と合併して「統一選挙」をやるので、これは民主党に有利だ。
自由党は議席数こそ(衆議院で22名と)少ないが、前回(00年)の衆議院総選挙の比例区の得票を合計すると660万票もある(産経新聞03年1月4日付朝刊4面。公明党は780万票)。このような「強大な」応援票を得た新民主党と、分裂した自民党が戦えば、自民党の惨敗は確実で、おそらくそのまま自民党の解体、消滅につながるだろう。
だから「『負けたら解散』などありえない」……とはだれも思っていない。亀井や高村が繰り返しそれをするな、と言うのは、ありうると思っているからだ。
理由はけっして、01年総裁選で小泉が「自民党をぶっ壊す」と言ったからではない。公明党がそれを望んでいるからだ。
小泉以外の者が総裁になる、といういことは反小泉陣営の候補が「2、3、4位連合」を組んで1人の候補を推すということだが、その「1人」はだれか?……藤井は自派閥、橋本派でも結束した支持は得られず、派の有力幹部である青木が小泉支持を表明したことで明らかなように「足元が弱い」。また、高村も小派閥(所属国会議員が16人)の長にすぎないため、立候補に必要な推薦人(20名)がなかなか集まらず、立候補表明が遅れた。したがってこの2人は「反小泉」の統一候補としては問題外だ。
他方、亀井はもっとも早くから「反小泉」のノロシを上げて頻繁にマスコミで首相批判を唱え、自派閥(江藤・亀井派)の支持もほぼ固めた。となると、反小泉統一候補、つまり「ポスト小泉」の首相(首班指名候補)は亀井になる公算が大だ。
これは公明党には受け入れ難い。なぜなら、亀井にはかつて池田大作を批判した「前科」があるからだ。
94年5月24日の衆議院予算委員会で、当時野党だった自民党の亀井は、羽田孜連立政権に公明党から多数入閣したことを池田大作が創価学会の会合での「デエジン(大臣)は創価学会幹部の部下」と述べた「傲慢発言」を問題視し、その録音テープを国会に持ち込み、TVカメラの前で再生し「池田を国会で証人喚問せよ」とまで訴えた。
さすがに公明党関係者が抗議し、予算委員長がそれに応じて速記者を止めたのでテープの内容は国会の議事録には残らなかったが、TVでは何度も流れた。また、このとき「テープを止めろ」という公明党関係者の抗議に、亀井は「止め方がわかんないよー」としらばくれ、それもTVで流れた。
(^_^;)
これでは(たとえ池田が亀井を許すと言っても)公明党員(全員、創価学会員)たる者、「亀井首相」を支持することは不可能で、亀井が総裁になり小泉が「負けたら解散」というのは、現実にありうる(創価学会にとっては「負けたら解散」より「亀井首相」のほうがはるかに非現実的だ)。
「負けたら解散」で自民党が分裂選挙に突入した場合、公明党は当然、分裂した自民党との選挙協力は不可能となり、選挙は「単独で」戦って、新民主党の菅代表、自民党の小泉陣営、反小泉陣営の3者と選挙中は「等距離外交」を展開する。そうなると、投票率が低くても公明党は議席を減らす恐れがあるが、心配ない。
選挙が終われば、公明党は菅、小泉、反小泉の3者のうち、好きな相手を選んで連立政権樹立を申し入れることができるからだ。その場合、公明党の発言力はいまよりはるかに大きくなる。
●ブッシュの選択●
その際、すでに連立与党の一員としてテロ特措法にもイラク復興支援法にも賛成している公明党は、だれと連立する場合でも「(国連決議なしでも)イラクへの自衛隊派遣」を政策合意として求めることになる。
菅は「(たとえ国連決議があっても)自衛隊のイラク派遣には慎重」だが、同党に(660万票を率いて)合流する「旧自由党」の小沢一郎(前)党首は「国連決議があれば賛成」だ。「自民党政治の終焉」という大義名分に公明党が賛同してくれる場合、菅がそれを拒否することは不可能なので、新民主党は公明党と連立し、その連立政権の対イラク政策は当然、菅と公明党の中間、つまり小沢の「国連決議があれば自衛隊派遣」に落ち着くはずだ。
これでブッシュも安心だ。ブッシュ政権が最近「イラク復興に国連の協力(新たな国連決議)を求める」姿勢を鮮明にしたことで、小沢も新民主党も、政権がとりやすくなった。
【03年7月27日放送のテレビ朝日『サンデープロジェクト』に生出演した野党党首のうち、社民党の土井たか子は「イラク復興支援法」は廃止すべきと明言した。が、菅は「民主党が政権をとれば(国連決議のない現状では)自衛隊は出さない」とは言ったものの、「廃止となるとそのための法案を出す必要もあるので、すぐにはできない」とごまかした。
筆者は、菅は最終的にはイラクに自衛隊を出す、と予測する。おそらく米共和党や保守本流の「意中の人」は小泉ではなく「菅+小沢」だ。但し「小泉(第二志望?)でもいい」のも確かだが。】
だから「負けたら解散」という暴挙の、真の発案者は意外に、公明党でも山崎拓でもなく、米共和党(保守本流)ではあるまいか。
【菅と小沢は、米保守本流から「いずれ米国はイラクの戦後復興に関して、米軍中心の『単独占領』から、国連の協力(決議)を取り付ける『国連多国籍軍占領』に舵を切る」ことをあらかじめ知っていて、当面の選挙で左翼的な浮動票を得るために「(国連決議なき)自衛隊派遣は反対」と言っていたのかもしれない。ちなみに小沢の著書『日本改造計画』の英語版の序文は、米保守本流の中核J・D・ロックフェラー4世上院議員が書いており、また、国連本部の土地はロックフェラー家の寄贈したものだ。つまり彼らは国連の「大家さん」であり、元々「国連重視」のはずなのだ。】
■総裁選の選挙違反〜郵便局が自民党総裁選の投開票を妨害?■
【前回)より続く。】
[省略]
■拉致家族の帰国〜北朝鮮の小泉懐柔策?■
【前回より続く。】
03年9月、自民党の大物政治家Xが、政界引退を表明した。
Xは(自身は「日系日本人」だが)終戦直後、当時朝鮮人党員を多数抱えていた日本共産党に在籍し、朝鮮人党員とともにテロ(小誌「国鉄爆破計画」)などのテロを計画し、その過去を当時の朝鮮人党員(のちの朝鮮総連、北朝鮮諜報機関の幹部)に知られていた。
Xはのちに自民党に入党して大幹部に出世するが、北朝鮮はXの、共産党員時代の「弱み」を握っているため、いつでも脅迫することができ、自由に操ることができた。
Xは自民党最大派閥の幹部だったので、その権力を北朝鮮に捧げ、北朝鮮はXの権力を使って国益を追求した。
北朝鮮による日本人拉致の問題が四半世紀以上解決されなかったのも、万景峰号などの北朝鮮船舶が様々な法令を破り、また覚醒剤、工作資金、工作員、核兵器やミサイル開発のための部品など、日本の国益を害するものを平然と(日本当局の大甘なチェック態勢のもとで)輸送できたのも、Xの「口利き」に負うところが大きい。
Xは、北朝鮮から見ると、利用価値が高いうえに、逆らったらいつでも「過去をばらすぞ」と脅せるので、絶対に裏切られる心配のない、まさに「かけがえのない政治家」だった。
そのXが引退すると(日本政界はまったく困らないが)北朝鮮には大打撃だ。
●「ポストX」は森?●
Xほど露骨に北朝鮮に弱みを握られている、つまり北朝鮮から見てムチを使える政治家はもういない。もし北朝鮮が今後も、日本政界内にエージェント(スパイ)を持ちたいなら、ムチではなくアメで政治家を操るほかない。
アメは北朝鮮の得意技で、その最大のものは、マスゲームや、「喜び組」などの美女軍団を活用した接待攻勢による篭絡戦術だ。オルブライト前米国務長官や中山正暉元郵政相ら、訪朝する前は必ずしも親北朝鮮派でなかった者が訪朝後に「北の手先」の如く態度を一変させたのがその典型的な成功例だ。北朝鮮側が02年の一時期、さかんに拉致被害者「家族会」の横田滋会長の訪朝を求めたのも「篭絡」する自信があったからにほかならない。また、日本の「ハト派」「進歩的」文化人の相当数は、朝鮮総連や親北朝鮮団体主催の講演会などに法外なギャラで出演して手なずけられており(平沢勝栄・拉致議連事務局長)これも「北の手先」だ。
しかし、02年9月17日の平壌会談で金正日総書記が「拉致」を国家犯罪と認めて以降、日本国内の対北朝鮮世論は厳しく、いま日本の政治家は、おいそれとは訪朝できない。中山元郵政相や故・金丸信元副総理、土井たか子現社民党党首らが「議員外交」などと称して自由に訪朝できた当時とは状況が異なり、政治家はいま下手に訪朝すると「親北朝鮮派」のレッテルを貼られて選挙で落とされかねない。
となると、北朝鮮はもう「篭絡戦術」は使えない。接待以外のアメを用意しないと、日本の政治家はもう動かせない。
●最後の親北朝鮮派●
となると、日本の政治家にとって相当大きな「交換条件」を用意して「取り引き」を持ちかけるしかない。
北朝鮮にとっては幸いなことに、日本の与党、自民党はいま崩壊の危機に直面している。96年に衆議院に小選挙区制が導入されて以来、同一選挙区で自民党候補同士が争うために派閥の支援を仰ぐ「派閥政治」は次第に無意味になり、03年9月の自民党総裁選の過程でほぼ機能しなくなり、派閥を基盤に権力を培ってきたXらの「ボス」政治家は権力を失った。北朝鮮にしてみると「いまボスたちにアメをちらつかせて交渉すれば、味方にできるかもしれない」という計算はいちおう成り立つ。
たしかにXの派閥は衰えた。が、小泉首相(自民党総裁)の属する森派だけは、いちおう結束して03年の総裁選でも小泉を支え、まだ権力を行使する余地があるように見える。少なくとも同派会長の森喜朗・前首相とその側近の中川秀直・国対委員長は、そう思っている。
森は00年4月、小渕首相の急病(急死)を受けて、Xら各派閥幹部の支持、「密室の談合」で首相になった経験がある。いくら選挙制度が変わったと評論家が言い、「派閥にとらわれない人事を」と小泉首相が言っても、「なんとか機能するものなら機能させたい」と派閥にしがみつくのは、自民党政治家の「本能」と言ってもよいだろう。
だから森は、03年の総裁選では、自派閥を率いて、最大派閥の橋本派の半分を牛耳る同派の青木幹雄・参院自民党幹事長と組んで、自民党国会議員のなかで小泉再選支持が多数派になるよう画策した(が、再選後の組閣人事では、小泉は派閥の推薦を完全に無視し、森と青木が解任を迫った竹中平蔵・経済財政・金融担当相を留任させ、森らの期待は「空振り」に終わった)。
この森が、首相就任前から、対北朝鮮弱腰派であることはよく知られている。
97年、森は、すでに「篭絡」されていた中山らと与党訪朝団の一員として訪朝した際、北朝鮮側との会談の場で「犯罪としての拉致事件を不問に付し、拉致被害者が行方不明者として、中国など第三国で発見される」という「解決策」を提案した。
00年、首相になっていた森は、この「軟弱な」解決策を日英首脳会談の席でブレア英首相に(うっかり?)提案し、それが漏れて鳩山由紀夫民主党代表(当時)に国会で「首相失格発言だ」と追求される事態に発展した(山陰中央新報Web版00年10月26日「論説:猛省を促したい軽率発言」)。
この発言は、犯罪を犯罪として糾弾する日本の姿勢を後退させるものであるだけでなく、それが漏れたことでそれ自体「次善の策」としても使いようがなくなってしまった。森の無能ぶりをよく示す失言だ。
ちなみに、このとき「『第三国発見方式』は中山の個人的見解であり、森首相の考えではない」という言い訳をしたのは、中川秀直・官房長官(現国対委員長)だが、彼の言い訳は中山本人によって否定され、中川は政府見解の訂正に追い込まれるなど、その対応は二転三転した。
【また、中川は森の側近として、03年9月に竹中と会談して大臣辞任を迫ったが、これも小泉現首相の反対で失敗。「森-中川ライン」は希代の「迷コンビ」と言えよう。】
とはいえ、森は首相経験者で、現首相を輩出する派閥の領袖だ。そして、次の衆議院総選挙で自民党は、自由党と合併して勢力を増した「新しい民主党」に敗れることを恐れている。もし敗れて野党に転落すれば「政権与党のメリット」を唯一の拠り所に、政策の違いを不問に付してかろうじて結束を保ってきた自民党は、間違いなく分解する。当然派閥政治も終わり、森派会長の森も「ただの代議士」に落ちぶれる。
それはイヤだ。
森はどんな手を使ってでも、次の総選挙には勝ちたい。
そこで「森-中川」は、北朝鮮拉致事件の被害者家族(蓮池夫妻、地村夫妻の子供計5人)を総選挙の投票日前に(裏金で)帰国させるべく「売国的な工作」をした……という説が、03年5〜6月頃からマスコミ界には飛び交っており、筆者も有力メディアの幹部からじかに聞いた。
韓国の金大中・前大統領は00年の南北首脳会談実現のため、金正日に莫大な「裏金」を払ったのだから、日本政府も「子供計5人」の帰国のために、1人あたり10億円(計50億円)ぐらい払え、というのが北朝鮮の要求らしい。
北朝鮮にとっては幸いなことに「最後の親北朝鮮派」の大物とも言うべき森が主流派閥の会長であり、その側近の中川も健在だ。森と中川は小泉訪朝の実現前から、金正日と親しい在米韓国人ジャーナリスト文明子と接触しており、森と中川は、この「文明子ルート」を使って03年5月から「子供計5人」の帰国(裏金による「買い戻し」)を画策している、と佐藤勝巳・現代コリア研究所長(拉致被害者家族を「救う会」会長)は指摘する(『現代』03年10月号p.28)。
●「安倍はずし」は成功したか●
北朝鮮が森と中川を使って「裏金」(身の代金50億円)をせしめる交渉を進めるうえで、最大の障害は、安倍晋三・前官房副長官だ。
日本の外務省はアジア外交の分野では、語学の現地研修の課程で中国に手なずけられる「チャイナスクール」などの親中国・北朝鮮派官僚に牛耳られており、田中均・現外務審議官(前アジア大洋州局長)はその典型だ。02年9月17日の日朝首脳会談でも、北朝鮮が証拠もなしに「横田めぐみさんら多数の拉致被害者の死亡」などといういい加減な情報を伝えた際、「平壌宣言」への署名は見合わせるべきだ、と小泉首相に正論を説いたのは安倍であり、逆に、安倍を遠ざけ、北朝鮮の希望どおりに首相に署名を促したのは田中均だ。
この田中均のような「売国的な」外交官がなぜ外務省の要職に留まっていられるのかと言えば、それは福田康夫官房長官が支持しているからだ(佐藤勝巳の説)。このことは拉致被害者「家族会」にも知られており、家族会の信任は安倍に厚く、福田には薄い。
そして、このことはもちろん北朝鮮にもよく知られている。
北朝鮮側から見ると、日本の対北朝鮮外交を担うのは官邸と外務省だが、このうち外務省は田中均ら親北朝鮮派が支配している(川口順子外相には彼らを抑える力量はない)ので、心配ない。
残るは官邸だが、ここでは、親北朝鮮派の福田と、反北朝鮮派の安倍が対立している。
そこで北朝鮮は03年夏、日朝国交交渉を再開(し、拉致問題等を解決)する条件として「安倍を交渉からはずせ」と要求した(産経新聞Web版03年8月18日)。
さて、03年9月20日、小泉が自民党総裁に再選されたあと、森が小泉に真っ先に要求したのは、安倍の「自民党副幹事長就任」だった(朝日新聞Web版03年9月21日。尚、当時の山崎拓・自民党幹事長を解任する要求もあったが、それは再選前からの要求)。
政府の要職(官房副長官)と党の要職(副幹事長)を兼ねるのは事実上不可能なので、これはもちろん安倍の官房副長官解任を意味する。一方で、小泉は福田を官房長官に残すことはその前から決めていたから、これが実現すれば、官邸も外務省に続いて「親北朝鮮派の天下」になるはずだった。
結局、小泉は、山崎を副総裁という名誉職に祭り上げ、安倍は副幹事長よりはるかに権限の強い幹事長に大抜擢したので、ここでも「森-中川」ラインは読み違えをしたことになる。
が、安倍が官邸を去ったという事実は変わらない。 安倍の後任の官房副長官には、細田博之・自民党衆議院議員が就任し、拉致問題担当も引き継ぐことが決まったが、彼が安倍並みに北朝鮮から見て「反北朝鮮的」(日本国民から見て愛国的)であるかどうかは、まだわからない。
これら一連の小泉人事に、「森-中川」が唖然とし困惑していることは間違いない。
が、もっとも困惑しているのは、おそらく北朝鮮だ。
たしかに「森-中川」は小泉に「安倍はずし」をのませはした。
が、幹事長になった安倍が何をするか、さっぱりわからない。自民党幹事長は強大な権限を持っているので、たとえば(政府がしぶっても)議院立法の形で北朝鮮制裁法案(万景峰号などの北朝鮮船舶の日本寄港拒否を可能にする法案など)を通すこともできるが、その権限を、若輩で、大臣経験すらない安倍が使いこなせる保証はない。
安倍幹事長を擁する自民党の政権に「子供計5人」を返しても、それで50億円もらえるだろうか? それより何より「5人」の帰国で拉致事件を「幕引き」にして国交回復交渉(回復後の経済援助)に進んでくれるだろうか?……北朝鮮当局は相当に悩むに違いない。
もちろん「森-中川」は「要求通り安倍ははずし、福田も田中均も残したんだから、5人を返せ」と言うだろう。が、北朝鮮側は
「あんたらは小泉をコントロールできてない。竹中の解任ですら失敗したじゃないか」
「もうあんたらには頼らない。これからは福田と田中均だけに相談する」
と言うだろう。
しかし、福田らに相談しても、そのうえで「5人」を返しても、日本政府が北朝鮮に対して軟化する保証はない。
とくに(予想される衆議院総選挙の)選挙戦中の10月17日、ブッシュ米大統領が来日することが重要だ。
小泉と個人的な信頼関係を持つブッシュは、この来日時の日米首脳会談で小泉に「イラク復興支援」と「北朝鮮の違法な核開発阻止」を強く求め、見返りに「拉致問題解決のための、日米共同での北朝鮮への圧力」を提示するはずだ。テロリストや(イラクや北朝鮮のような)テロ支援国家とは妥協も取り引きもしないという米国の国是から見て、ブッシュが「50億円」を容認することはありえない(米国政府は「拉致はテロ」と認めているのだから)。
小泉も日米同盟や「反テロ」路線の重要性をふまえ、ブッシュに同調するだろう。
となると、北朝鮮は「5人」を返しても、なんのトクにもならない可能性がある。
かといって、もし総選挙で自民党が敗れて民主党政権ができた場合は、北朝鮮はすべてを失う。民主党内には、Xや中山、森、中川のような親北朝鮮派の政治家がほとんどいないからだ(それどころか、旧自由党の 西村眞悟・衆議院議員のような「対北朝鮮最強硬派」もいる)。民主党政権のもとでは、外相も官房長官も一新され、場合によっては官僚(田中均)のクビもとぶから、日朝交渉はゼロからやり直しとなり、いつ国交回復(回復後の経済援助)が実現するかわからない。下手をすると、日本からの援助をもらう前に、経済の疲弊しきった北朝鮮の体制は崩壊してしまうかもしれない。
【03年11月頃になると、SARSが中国などで再流行する可能性がある。前回の02-03年冬季の流行に際して、北朝鮮は、中朝国境の封鎖(貿易停止)や韓国要人往来の拒否など、まるで自分で自分を経済制裁するかのような措置を、SARSの国内流入を防ぐためにとった(小誌「金正日 vs. SARS」)。もしSARSが流入し流行したら、医療制度もろくにない極貧国の北朝鮮では、一気に国家崩壊に至る恐れがあるからだ。したがって、北朝鮮はどんな手を使ってでも、その前に日本から経済的利益を得たいはずで、日本が譲歩せずとも、北朝鮮が「5人」を返す可能性はある。だから「森-中川」の「50億円」は必要ない。】
結局、北朝鮮は、崩れかかった自民党(外務省)内の「親北朝鮮人脈」に賭けて、総選挙前に「5人」を返すのが最善だろう。
が、それで見返りが得られるかどうか、自民党政権が続くかどうか、はだれにもわからない。
森でさえコントロールできない、なにごとも「予測不可能」な小泉を、北朝鮮が操るのは不可能だからだ。
(^_^;)
【たとえ自民党が総選挙で勝っても、それは「安倍幹事長の勝利」「ポスト小泉の首相候補の台頭」を意味するから、北朝鮮にとっては悪夢かもしれない。】
●6か国協議はなぜ11月か●
(日本政府筋が「アジア太平洋経済協力会議APECの首脳会議などで10月は外交日程が立て込んでいるから11月がいい」と言っていることもあって)北朝鮮が、日米中露韓と核問題を討議する「6か国協議」を11月頃に再開する、という観測が流れているのは、北朝鮮が、10〜11月の「日米首脳会談」「総選挙」「SARS」の行方を見極めないと動きようがないから、にほかなるまい。
■小泉と青木と暴力団〜「小泉内閣vs.藤井道路公団総裁」の泥沼■
こちらに収録。
■首相秘書官の逮捕?〜「小泉内閣vs.藤井道路公団総裁」の泥沼(2)■
こちらに収録。
■「民・公連立」の密約■
【前回「首相秘書官の逮捕?」より続く。】
03年10月28日、第43回衆院選が公示されると、大手マスコミ各社は、各党の議席獲得目標を報道し始めた。
自民党は、党執行部によると(連立与党3党全体ではなく)自民党の単独過半数、241議席が目標だそうだ。さらに、小泉首相によると「与党3党で過半数を割ったら下野する」つまり、自民党が大幅に議席を減らしたあとは連立の組み合わせを変えるなどして連立を維持することはしない、のだそうだ。また、首相は「比較第一党が政権の中心になるのが筋」と認めているから、もし民主党の議席数が自民党を上回れば、民主党中心の連立政権になる、らしい(27日の日本記者クラブでの「6党首討論会」での発言、産経新聞03年10月28日付朝刊4面、29日付朝刊1面)。
●「200議席で政権交代」の謎●
一方、民主党の目標は200議席だという。公示前が137だから大幅な増加には違いないが、過半数には遠くおよばず、そう簡単に政権が取れる数字ではない。にもかかわらず、民主党とマスコミが「200を超えれば政権が見えてくる」などと言い募るのは不思議だ、と思っていたら、そのからくりを正直に説明する記事がみつかった。
毎日新聞Web版03年10月29日には、過半数に満たなくとも200を超えれば、選挙後に他の野党勢力や「与党の一部」との連携が可能になるから、とあった。
他の野党、社民党や共産党に、民主党が首班指名で「小泉でなく菅と書いてくれ」と頼むのはあたりまえだし、両党が自民党を助けるとも思えないので驚くに値しないが、この記事は、「与党の一部」を寝返らせることを前提に、民主党が200という目標を出した、と認めている点が重要だ。
「与党」は現在自民党、公明党、保守新党の3つしかなく、保守新党は絶滅寸前の極小政党なので、3党のうち寝返ってもらって意味があるのは、公明党だけだ。
もちろん「与党の一部」を「与党である政党の一部議員」と解釈すれば、自民党から数人寝返ることを民主党が期待していると言えなくもない。が、数人では(30人以上の衆議院議員を持つ公明党に比べて)政権獲得にはほとんど役に立たないし、かといって20人、30人もの自民党議員が裏切る、というのも現実味がない。
●「民・公連立」のタブー●
前回「首相秘書官の逮捕?」でシミュレーションしてみたように、民主党が政権を取るなら公明党の協力を得る以外にほとんど選択肢はないと思えるのだが、なぜかこのことをはっきり言うのは、大手マスコミではタブーのようだ。
「タブー」を示す例を2つ挙げる。産経新聞とテレビ朝日だ。
産経新聞は、民主党の目標が200と中途半端であることをこう説明する:
「(選挙後の民主党は)自民党の一部議員との連携に動くほか、社民党に連立政権への参加を求め共産党の閣外協力なども模索。田中真紀子元外相ら無所属、諸派議員との連携も視野に入れる。さらに参院での与党の過半数割れ解消に、公明党への働きかけも想定される」(10月29日付朝刊1面)。
奇妙ではないか。どっちみち民主党は最後には公明党の協力が必要になる、というのなら、安保・防衛政策でほとんど一致しない共産党への閣外協力などを頼む前に、なぜそういう矛盾のない公明党に「閣内協力」を依頼しないのか。
たとえば、民主党200、社民党10、共産党10、野党系無所属5、公明党30というケースでは、民主党は共産党を無視して公明党、社民党、野党系無所属に連立政権樹立をよびかけるはずで、共産党の出る幕はない。
テレビ朝日の「タブー」はもっと露骨だ。
03年10月27日放送の『スーパーモーニング』で評論家の森田実は「民・公連携」の動きがあると言ったのに、同日夜の同局の『ニュースステーション』では、森田実のVTR出演場面では、その下りはカットされていた。
森田によると、公明党は自民党の将来に不安を持っているという。
ここ数年連立政権を組んで選挙を一緒に戦ってみて、公明党は自民党の組織力が日に日に衰退しつつあることを悟り、自分たちの将来をこの党に預けるのは危険だと感じ始めた。そこで今回の衆院選では、大阪などいくつかの選挙区で、公明党の支持母体の創価学会(タテマエ上は公明党と別組織)が民主党候補を応援するケースがあるというから、すでに「民・公連立」の布石は打たれているらしい。
●新潟5区の怪●
森田がもっとも決定的な「民・公連携」の証拠として挙げたのは、新潟5区だ。
ここには、白川勝彦元自治相が立候補を表明し、民主党の推薦または公認を受ける予定だった。が、03年9月に田中真紀子が秘書給与詐欺事件をめぐって東京地検で不起訴になり、5区から立候補しそうになると、民主党執行部は急に白川の推薦、公認を躊躇するようになり、結局、公示の前日になっても岡田克也幹事長が「田中(真紀子との連携)問題を含めた総合判断」と称して推薦・公認を先送りするありさまだった。
実は、白川はかつて自民党に所属した頃は、亀井静香元政調会長と並ぶ「反創価学会」の急先鋒だった。森田によると、将来「民・公連携」をうまく進めるためには、白川を民主党として支持しないでくれ、という要求が公明党側からあり、それに応えて民主党側が(もちろん田中真紀子と連携したいという気持ちもあろうが)真紀子を口実に白川の推薦・公認を白紙に戻した、というのだ。言わば「阿吽の呼吸」だ。
この卓見を、森田は朝のテレビ朝日の番組では生放送で述べたが、その同じTV局が、夜の高視聴率番組では(新潟5区の白川公認問題を取り上げながら)なぜかカットしてしまう、という不思議な現象が見られた。
どうも、大手マスコミ関係者はみな「民主党政権ができるなら、それは『民・公連立政権』だ」と現時点でわかってはいるようだ。「数合わせ」をすれば明らかなので、当然といえば当然だ。
が、それを素直に(『ニュースステーション』を見る数百万の視聴者の前で)言えないのは、公明党が自民党との連立政権から離脱して民主党に鞍替えするからには大義名分が要るはずなのに、現時点ではそれが何かわからないから、ではあるまいか。
●米共和党 vs. 橋本派●
そこで筆者が考えたのは、せっかく道路公団(JH)の利権スキャンダルに関連して首相秘書官の飯島勲の名が取り沙汰されているのだから、彼が東京地検特捜部に逮捕されるか、それが無理でも強制捜査を受けるか、それがだめでも自民党道路族の大物が逮捕か捜索を受ければ、比較的すんなり事態は落ち着くべきところに落ち着くだろう、と思い、前回そういう結論に達した。筆者は、01年の「自民党総裁選→小泉政権誕生」と同様に、03年の「民主党と自由党の合併→衆院選」をも、自民党(橋本派)を打倒しようとする米共和党(保守本流)の工作の一環に違いないと見たのだ。
思い起こせば、米共和党が、道路族や郵政族の族議員を多数抱える橋本派と戦い始めたのは昨日や今日ではない。 00年11月、ブッシュ米共和党政権が誕生する前から、当時のブッシュ陣営の経済顧問がひそかに来日し、自民党の加藤紘一元幹事長、山崎拓現副総裁、民主党の仙谷由人企画委員長(当時)、熊谷弘幹事長代理(現保守新党代表)の4人と都内のホテルで会合し、熊谷は遠来の客人に加藤を「ネクスト・プライム・ミニスター(次の首相)」と紹介した。 民主党の一部議員と自民党の加藤派、山崎派の議員はこのときまでにすでに頻繁に会合を重ねており、その経緯を踏まえて(「遠来の客人」のGOサインを受けて?)加藤は00年11月9日、渡辺恒雄・読売新聞社長との会合でこう述べたという:
「鳩山由紀夫(元民主党代表)さんはポピュリスト(大衆迎合政治家)だが、菅(直人・現民主党代表)さんは違う。菅さんは渡辺さんより右ですよ。私は菅さんとは5秒で連絡がとれる」(朝日新聞00年11月17日付朝刊2面)
すくなくともこのときから米共和党が、日本の政局に手を突っ込んで橋本派の族議員政治を終わらせる考えでいたのは間違いない。米共和党と日本の民主党の支持を受けた加藤はこの直後、山崎と共闘し加藤派と山崎派を率いて、野党が提出した、橋本派の影響の強い森喜朗内閣への不信任案に賛成する動きを見せた。いわゆる「加藤の乱」だ。
が、加藤があくまで自民党内に留まる姿勢を崩さなかったため、民主党は連携のしようがなくなり、結局「加藤の乱」は橋本派の野中広務幹事長(当時)が、党の公認権を使って加藤・山崎両派の若手議員を(おまえの選挙区で次の選挙にほかの候補者を立てるぞ、と)恫喝し、鎮圧してしまった。
とはいえ、このときから米共和党と民主党の菅、自民党の若手議員らとの「非橋本派」連立政権作りの動きがあったのは間違いない。
01年、橋本派の影響の薄い、小泉純一郎が自民党総裁選に勝ち首相となると、米共和党は「次善の策」としてこれを支持した。が、橋本派は「抵抗勢力」として巻き返し、野中らは小泉の政策を、構造改革から日米同盟の強化まで、ことごとく妨害しようとした。
そこで、米共和党は「第一志望」(民主党政権樹立)に戻る。
02年9月の民主党代表選で、加藤がポピュリストと酷評した鳩山由紀夫が選ばれると、民主党の若手と菅は結託して「党首討論のとき迫力がない」「幹事長人事が(党代表選の)論功行賞だ」などと意味不明な理由でこれを引きずり下ろし、菅と交代させた(「フリーメイソンと鳩山家」を参照)。02年12月、これで民主党中枢から頭の程度の低い政治家が消え、民主党が米共和党や自由党の小沢一郎党首(当時)などと連携し、高度な政治的駆け引きを駆使して政権を取る態勢が整った。
自民党の小泉内閣の進める構造改革の一環にJH民営化があり、すくなくとも02年までは民主党はこれを支持していた。が、03年1月に「高速道路無料化(JHの廃止)」を検討し始め、6月には党の方針として打ち出した。これで、JHスキャンダルで自民党をたたきやすい環境が整った。
7月、JHの「財務諸表」問題が朝日新聞と週刊文春によって惹起され、国会で民主党がスキャンダルとして追及。 同じく7月、民主党と自由党は合併で合意。
この頃、公明党は、公明党に不利な04年の衆参同日選を避けるため、衆議院の解散・総選挙を03年秋にと自民党に要求し、実現させた。
9月、小泉と自民党に根強い恨みを持つ田中真紀子を、米共和党の意を受けて動くことの多い東京地検特捜部が突如、秘書給与詐欺事件に関して不起訴(嫌疑なし)とした。これで、次期衆議院総選挙に、自民党の最大の敵として、国民的人気のある真紀子が立ちはだかることがほぼ確定。
10月、藤井治芳JH総裁の解任問題が泥沼化し、国民に小泉内閣の不手際が印象付けられる。
……
藤井の総裁任期は実は04年4月16日で切れる。だから、扇千景・前国交相のときに解任できなかったのなら、担当大臣が石原伸晃・現国交相に替わったからといって急にクビにしなくても、あと半年ほおっておけばよかった。そうすれば総裁の後任人事もすんなり決まり、(見かけだけでも)小泉構造改革の順調な進展を印象付けることができたはずだった。
総選挙だって、04年7月まで延ばせば、衆参同日選になって自民党には有利だったはずだ。すくなくとも筆者が自民党の総裁、幹事長ならそうする。
それがそうならなかったのは、公明党が同日選に反対したからであり、日本経団連など日本の財界の主流がJH総裁の後継人事に協力しないと決め「いつ藤井が辞めても混乱必至」の事態になったため、選挙前に改革パフォーマンスとしてクビ切りが必要になったからだ。
つまり、米共和党、日本の財界、菅直人、小沢一郎、公明党、東京地検がひそかに連携し、加藤紘一や田中真紀子(や小泉)をコマとして使い、橋本派(青木幹雄・自民党参院幹事長)や、その影響下にはいった小泉や、役立たずの鳩山由紀夫を排除する、という陰謀が、この3年間ずっと進行していたように見えるのだ。
●離脱の条件●
が、03年10月27日の「6党首討論会」で、公明党の神崎武法代表は菅に「共産党と連立することはないか」と執拗に回答を迫った(結局回答なしだった)という。
ということは、公明党は上記の陰謀には参加していないのか?
参加していれば、神崎はこんな子供じみた質問はしないはずだ。
現在、共産党支持層の一部は今回だけは自民党を政権から引きずり下ろすために民主党に投票しようと思い始めている。そんな状況で、菅が「共産党とは連携(連立)しない」と断言することは、民主党に投票しようとしている共産党支持者の好意に水をかけることになり、選挙に勝つうえで得策でない。そんなことを菅が早々と言うはずはない。
【00年衆議院総選挙に際し、当時の鳩山由紀夫民主党代表は、事前に社民党と十分な選挙協力をせず、また共産党には「党名を変えろ」などと反共的な無理難題を吹っかけて連携の芽を摘んでいた。このため、この選挙で民主党は大躍進したものの、自民党を政権から追い落とすまでには至らなかった。当時の日経新聞の社説は、「民主党は千載一遇の好機を逸した。たとえ共産党の手を借りてでも政権交代を実現すべきだった」と嘆いた。
このとき、日経新聞の読者、すなわち財界人に、自民党族議員政治の終焉を望む声がいかに強いかを知った菅や民主党の若手議員は、以後、鳩山を決定的に軽蔑するようになり、それが02年の「党代表引きずり下ろし」につながる。 この経験があるので、菅は選挙前には、そう簡単には反共発言はしない。】
もちろん、菅が共産党を閣内に入れることなどありえない(03年11月2日放送のNHK『衆院選特集』で明言)。また、参議院の過半数獲得の問題があるので、共産党の支持があれば公明党の支持はどうでもいい(両党を秤にかけて公明党の発言力を抑える)ということもないはずだ。
それがわかっていれば、神崎もあんな質問をしなくてよさそうなものだが、質問をしたところを見ると、神崎は鳩山由紀夫並みの頭しかないのか、主役として上記の陰謀にかかわっていないので全体像(における公明党の役割)がわからないのか、それともまだこの陰謀に参加するか否か迷っているのか、の3つのうちどれかだろう。
実は、神崎は元検事だが、すくなくとも現時点で「そう遠くない将来に東京地検特捜部が飯島勲や自民党道路族を捜査する」という感触は得ていないようだ。
おそらく現時点で公明党は、関ヶ原の合戦における西軍の小早川軍のように、敵味方双方から期待されている、というところだろう。
だから民主党は210議席以上獲得して「あと公明党さえ加われば過半数」という状況を作ることが重要だ。それができないと、神崎の公明党もまた、かつての加藤紘一や熊谷弘のように敵方にまわってしまう恐れがある。
逆に、それさえできれば、その場合、自民党は単独過半数はもちろん、連立与党3党での過半数も割っている可能性が高い。そうなれば、小泉首相自身が「3党で過半数を割れば下野」と言っているので、自民党は政権を降りる。
が、そのとき公明党の議席が改選時の31より減っていなければ、公明党は「自民党は国民に不信任されて(勝手に)下野したが、わが公明党は国民に信任されたので政権に留まる」と主張できる。
これで、いちおう、地検特捜部が動かなくても、公明党が自民党との連立政権を離脱し、民主党と連立できる条件が整うような気はする。
が、地検が動いたほうがすっきりするのは間違いない。
【03年10月16日配信の「青木vs.藤井」で触れた国交省傘下の財団法人・民間都市開発推進機だが、この法人が百貨店「そごう」から、将来買い戻してもらう約束で買い取った、不良債権の担保の土地代118億円が、そごうの破綻で回収できず、焦げ付いている(産経新聞03年11月3日付朝刊1面)。このスキャンダルがどこまで大きくなるかで03年衆院選の帰趨が決まる?】
【この問題については次回以降も随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です。
次回メルマガ配信の予約は → こちら】