小泉政権絶体絶命

〜イラク人質事件〜

Originally Written: April 09, 2004(mail版)■小泉政権絶体絶命〜イラク人質事件■
Second Update: April 09, 2004(Web版)

■小泉政権絶体絶命〜イラク人質事件■
イラクでの邦人人質事件の発生により、小誌既報の通り小泉政権はイラクでつまずいて退陣に追い込まれ、拉致家族は退陣まで帰国しない。04年3〜4月のイラクでの戦闘激化は予測(既報)の範囲内。
■小泉政権絶体絶命〜イラク人質事件■

■小泉政権絶体絶命〜イラク人質事件■
【前回の「エイプリルフール特集号」は → こちら
【今回は「小泉退陣後に帰国」 「3月14-29日の死闘」の関連記事です。】

やはり米国の期待どおり、小泉政権は退陣に追い込まれるようだ。
小誌は03年からずっと、小泉政権はブッシュ現米共和党政権の意向に沿わない政権に成り下がったので、退陣に追い込まれる、と予測して来た。

日本は米国にとって重要な同盟国だ。重要な理由は地政学的な位置(北東アジアの島国)と世界第2の経済力だ。
そのだいじな経済力を、自民党の道路族、郵政族などの族議員が、無駄な公共事業に国力国費を浪費することで劣化させて来た。
それを阻止する経済財政の抜本的な構造改革を日本に求める、とブッシュ政権発足当時の政府高官は言っていた。

だから、古賀誠・元自民党幹事長らの族議員が権力や議席を失い、怒り狂って小泉首相を罵倒するような事態を、米国は望んでいるはずだし、そうならない限り、米国の望む改革を日本が実行しているとは言えないはずだ。

が、04年4月現在、そうなっていない。古賀誠らは悠々と与党有力議員の座を守っている。
米国は3年待った。だが、小泉はなんの改革もできなかった。族議員が困らない、形だけの道路公団民営化や郵政民営化が決まっただけで、財政赤字はいっこうに減らない。

なら、小泉政権は潰すしかない。
米国(ブッシュ政権)が小泉政権を潰すには、04年7月の参院選に自民党が負けることが不可欠だ。

で、負けるためには、次の2つのことが必要だ。

#1: 04年参院選の前を含めて、小泉が政権の座にある間は絶対に、北朝鮮に拉致された日本人被害者の家族(蓮池夫妻の子供ら、拉致家族8人)を帰国させない(小誌「小泉退陣後に帰国」を参照)。

#2: 04年参院選の前に、イラクに派遣された自衛隊が悲惨な事態に巻き込まれ、小泉が「派遣責任」を問われる(「3月14-29日の死闘」)。

●家族帰国せず●
#1について。
テレビ朝日は、04年4月8日夕方の『Jチャン』で「今夜の『報道ステーション』で、古館伊知郎キャスターによる(朝青龍ではなくて)山崎拓・元自民党副総裁へのインタビュー(収録済み)を放送する」と言っていた。
山崎は04年4月初めに極秘裏に訪中して大連で北朝鮮関係者と接触して帰国したばかりであり、古館はこのインタビューで「参院選前にも拉致家族の帰国がありうる」という山崎の発言を聞き出していた。

が、たまたま偶然同日午後9時、カタールの衛星放送アルジャジーラが、イラク国内で日本の民間人3人がイスラム過激派に拘束され、犯行グループが手紙で「3日以内に自衛隊をイラクから撤退させ(ると日本政府が決め)ないと3人を殺す」と表明したと報じた。このため、上記のインタビューの放送はキャンセルされた。これが、参院選の勝利をめざす自民党にとって、どれほど大きな痛手になったかは、想像に難くあるまい。

北朝鮮側は大連での山崎との会談では「(自民党総裁の任期から判断して)小泉政権が続くあと2年半のうちに、拉致問題などを解決して国交を正常化したい」(西日本新聞Web版04年4月8日)としか言っていなかったから、元々、参院選前に、具体的に家族帰国の日程が決まる可能性は薄かった。

が、テレ朝の看板番組『報道ステ…』で「さも可能性があるかのように」宣伝できれば、参院選を控えた自民党にも、衆議院議員落選中で「補選待ち」の山崎自身にも有利だ、と判断したからこそ山崎は古館の独占インタビューに応じたに相違ない。

この山崎の淡い期待は、邦人3人を拘束した過激派によって吹き飛ばされた。
もちろん、この過激派「サラヤ・ムジャヒディン」(聖戦士旅団、戦士隊)と米国政府が直接間接につながっている、という証拠はない。が、3人のなかに「米軍の劣化ウラン弾使用の害を告発する」など反米的な主張を持った日本人が含まれていることは事実であり、また、日米同盟強化や自衛隊のイラク派遣に賛成している毎日新聞や産経新聞など「親米的な」大手マスコミ関係者(大手に協力するフリー記者)が含まれていないのも事実である。

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●3月から延期●
#2について。
04年3月、米軍やそれと連携したパキスタン軍が、アフガン・パキスタン国境地帯で、アルカイダなどのイスラム過激派テロ集団の掃討戦を厳しく行っていた。当然、そのカウンターアタックとして、テロ側はアフガンに限らず、世界中で反撃に出るはずだった。

いちばん反撃しやすい戦場は、米軍占領後も治安が不安定なままのイラクだ。
イラクには、米国の同盟国・日本の自衛隊がいる。米兵はイラク戦争の「大規模戦闘終結宣言」(03年5月)後も毎日のように死傷していて、彼らを襲ってもなんのニュースにもならないが、自衛隊はそうではない。自衛隊は発足以来ほとんど海外派兵されたことがないので、戦死者も1人もいない。だから、自衛隊員を1人傷付けるだけで国際的大ニュースになる。つまり、自衛隊はテロ側にとって、非常に魅力的な標的なのだ。

だから「04年3月下旬頃、イラク派遣自衛隊員が悲惨な事態に巻き込まれる可能性が高い」と小誌は1月から述べて来た(「3月14-29日の死闘」)。

ところが、イスラエルが「飛び入り」する。
パレスチナのイスラム原理主義(過激派)組織ハマスの創設者アハマド・ヤシン師が、現地時間04年3月22日にイスラエル軍ヘリのミサイル攻撃で死亡した。ガザ地区などパレスチナ自治領にイスラエルが設けたユダヤ人入植地を治安上の理由で撤去する、とイスラエル政府は決めていたが、それをハマスなどが「自分たちのテロ闘争の戦果」と受け取るとテロ側が増長する恐れがあったので、イスラエル政府は「テロに屈しない」ことを示すためにヤシンを殺害したのだ。

が、ヤシンは精神的指導者にすぎず、テロや戦争を陣頭指揮していたわけではない。
欧州連合(EU)外相会議は同日、共同宣言を発表し、イスラエル軍の行為を「(国際法に違反する単なる)殺人」と非難した。

このため日本政府もイスラエル非難の声明を出さざるをえなくなった……これで自衛隊は助かった。イスラエルは世界中のイスラム教徒にとって、アラブ人イスラム教徒の土地パレスチナを占領して同胞苦しめる仇敵だ。その仇敵を日本が非難した以上、アルカイダ(イスラム教徒の主流派スンニ派が主導)などのイスラム過激派も、いかにアフガンでの掃討戦の反撃とはいえ、また自衛隊が魅力的なターゲットとはいえ、日本人を攻撃するわけにはいかない、と考えたのではないか。

じっさい、それから1週間以上、イラク派遣自衛隊員には平穏な日々が続き、三段階に分けて送り込まれた派遣部隊は、最後の一群も含めてすべて無事に現地(イラク南部のサマワ近郊)にはいり、完全な展開を終えた。

ところが、こうしたスンニ派の自制(?)を補うかのように、別のイスラム過激派が暴れ出す。
04年3月28日、イスラム教徒の少数派シーア派の、イラクにおける指導者の1人ムクタダ・サドル師の一派が発行する週刊紙ハウザに対して、暫定占領当局(CPA)は「いくつかの記事が連合軍(米占領軍など)への暴力とイラクの混乱をあおるために故意に書かれた」との理由で発禁処分にした(産経新聞04年4月5日付朝刊5面)。

サドルは元々対米強硬派で、小銃などで武装する数千名の民兵組織「マフディー軍団」を率いていたが、CPAや連合軍(米軍)は、サドル支持派が発禁処分に反発してイラク各地で米軍などを襲ったのを機に制圧に乗り出し、さらに1年前の殺人容疑を突然持ち出してサドルの逮捕状を出すなど、イラク全土でサドルに共感するシーア派民兵組織と「全面戦争」に突入し、4月6日には、イラク中南部数か所でサドル支持派と連合軍が衝突した。

【但し、シーア派の最高指導者はイラン出身のシスターニ師で、サドルは「格」の低い指導者だ。すべてのシーア派がサドルに共感する、という事態はまだ起きていない。】

もっとも、こうした「全面戦争」はべつに驚くに値しない。米国防長官の諮問機関「国防政策委員会」のメンバー、キッシンジャー元米国務長官は、03年12月に収録されたテレビ東京の番組『日高レポート』(04年1月4日放送)で「04年3〜4月には反米テロは激化するが、04年後半には急速に沈静化する」と予測(予告)を述べている。筆者にとって意外だったのは、反米テロの主役が、アルカイダと連携したスンニ派でなく、サドルらのシーア派に代わったことだけだ。

キッシンジャーを含む米共和党が、現在米国政府を支配しているが、この党の幹部は相当に律儀な人が多いようで、一度予告(予測)した「3〜4月の反米テロ激化」は、主役が代わっても「ぜったいにやってもらう」というつもりらしい(米国主導のCPAの「発禁処分」がなければ、シーア派の大規模蜂起などは起きなかっただろうから)。

しかし、シーア派が暴れてもなお「自衛隊を悲惨な事態に巻き込むのはだれか」という問題は残る。
米共和党にとって、真の構造改革のできない小泉は有害無益であり、彼を退陣に追い込むには、彼が派遣を決断した自衛隊がイラクで悲惨な事態に巻き込まれる必要がある。

が、アルカイダなどのスンニ派系過激派は、陰に陽にイスラエルへの支援を続ける米国(米兵)への攻撃は続けているものの、日本やEUがヤシン殺害を非難して以来、これらの諸国に対してはそうはいかない。

他方、サドルらのシーア派はまだ米軍に「掃討」され始めたばかりで余力はあるものの、目の前の敵、米軍との戦闘に忙しいから、自衛隊にまで手を出す余裕は当面なさそうに見える……と思っていたら、「聖戦士旅団」などという無名の過激派が出現し(自衛隊が警備厳重で襲えないので、その「代替措置?」として)日本の民間人3人を拘束して人質にした、という。しかも、自衛隊が3日以内にイラクから撤退(すると決定)しない限り人質を殺す、という。

筆者は、4月8日夜、聖戦士旅団などという、アラブの文化をあまり知らなくても、だれでも考えつきそうな名前を初めて聴いたとき、一瞬、この組織は米軍が「さくら」で作ったのではないか、と思った。それぐらいみごとに、この人質事件は、小泉退陣へ向かう遠大な計画の、ヤシン殺害による遅れを、カバーする形で発生しているからだ。

もちろん、この人質事件は、自衛隊が直接被害を受ける事態ではないが、聖戦士旅団が自衛隊の撤退を要求している以上、自衛隊が巻き込まれた「悲惨な事態」であることには違いない。

●大統領不在●
ところで、4月8日夜には、イラクで韓国の民間人(牧師)7人も、シーア派民兵組織に一時拘束されるという事件が起き、日本と同様、米国の同盟国として連合軍やCPAに協力する韓国は、イラク過激派の標的になりうる、という事実が表面化した(毎日新聞Web版04年1月9日)。

小誌「韓国首相の謀叛?〜もし『大統領不在』時にテロがあれば」でも述べたとおり、04年4月現在、4月15日の国会議員総選挙を控えた韓国では、大統領弾劾裁判中のため、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は職務停止に追い込まれ、高建(コ・ゴン)首相が大統領代行に就任している。盧武鉉は反米的な若者など、左翼・革新系の反米世論の支持を受けて02年12月の大統領選で当選したが、高建はかつて保守・親米系野党、ハンナラ党が政権を取っていたときに首相を務めたこともある、保守系の政治家だ。

もしいま韓国で安全保障上の大事件、たとえばイラクに派遣されている韓国軍兵士や韓国本土への大規模なテロがあった場合、反米世論の支持を受けている盧武鉉は、当然、イラクからの撤兵を決める……と言いたいところだが、彼はいま職務停止中なので、それはできない。

もしそういうケースで盧武鉉の代わりに、保守・親米系の高建が撤兵を決めたら、4月15日の総選挙で反米世論は与野党いずれに投票していいかわからず、収拾の付かない大混乱になるのではないか、と筆者は04年3月17日配信の小誌記事で予測した。

「撤兵」とは少し違うが、実はいま韓国政府は「増派」をめぐって悩んでいる。03年中に、イラクに韓国軍を増派することをいったん決めたが、イラク国内のどこに派遣するかについて(できれば、治安がよくて殉職者の出にくいところに派遣したいので)「調査検討中」で、政府はまだ正式には増派を決断していない。

「イラク派兵の方針は変わらない」と潘基文(パン・ギムン)外交通商相は述べるが、盧武鉉の与党ウリ党の李康來(イ・ガンレ)第1政調委員長は「増派部隊の規模や性格について国会で再論すべき」と微妙な言い方をしている(朝鮮日報Web版04年4月7日)。

高建は、「増派」や「撤兵」の決断を総選挙前に(盧武鉉の指図を受けずに)保守系野党に有利になる形で行う「フリーハンド」を、いま手にしている。

イラクで韓国人らが危険な目に遭えば遭うほど、多数派の反米世論(おもに若年層)は「撤兵」「増派中止」を求める声を大きくする。その声に、高建やハンナラ党が勝手に応えて一時的に反米的な決定(増派中止)をしてしまえば、選挙も政局も、一気に盧武鉉に不利に、保守(親米)派に有利に傾く。

日本が今回直面した人質事件は、どう転んでも小泉政権には不利なので、小泉の今年04年中の退陣はほぼ見えたが、盧武鉉のほうはどうなるか……退陣の確率は前より高くなったとは思うが、筆者にはまだ確証はない。

●18歳の英霊●
ところで、人質になった3人のうち1人は、18歳の少年だ。
他の人質はイラクの孤児を支援するボランティア活動家と、『週刊朝日』で報道する記事を書くために取材に行ったフリージャーナリストで、そのイラク入国の理由は、米軍にも日本政府にも理解できるものだ。

が、18歳の少年は「米軍がイラク戦争で使用した劣化ウラン弾の危険を告発する子供向けの絵本を作りたいので、その取材のために入国した」といい、さらに「自衛隊も、自分自身も劣化ウラン弾の被害(被爆)を受けるかもしれない」と生命の危険を自覚していたという(04年4月9日未明放送のNHKニュース、産経新聞04年4月9日付朝刊31面)。

しかし、驚いたことに、彼の両親は彼のイラク入国を積極的に承認したという。

これには呆れた。外務省は、04年3月19日発表の海外安全情報で「イラクに滞在されている全ての邦人の方々に対し引き続き退避を勧告します。また、イラクへの渡航については、如何なる目的であれ、情勢が安定するまでの間延期して下さい」とイラク全土を対象とした退避勧告を出しているのだから。

つまり、彼の両親は、まだ18歳の、ジャーナリストとしてもボランティア活動家としてもなんの専門知識も技術も持たない、はっきり言ってイラクに渡航したところでなんの役にも立たない息子を生命の危険を承知で、人命を尊重する政府(外務省)の反対を押し切って04年3月19日以降(4月4日)に送り出したのだ。

正気か、この親は?
この親に聞きたい、「あんたはそうまでして自分の息子を平和主義の『英霊』にしたいのか」「なんの役にも立たない渡航で英霊になりたがるように教育(洗脳)したのか」「息子がテロや劣化ウラン弾のせいで死んだら『左翼版靖国神社』にでも合祀してもらうつもりか」。

これは児童虐待か、さもなくば自殺幇助だ。
こんなことをする親に、自衛隊のイラク派遣に反対する資格はない。日本政府に比べてあまりにも人命を粗末にしている。

万一、息子が死んでも、その死を利用して、息子の尻馬に乗って「反戦平和運動」をして優越感に浸ることなど、絶対に許せない。それは、自爆テロの実行者を英雄扱いして新たな自爆志願者を募る、アルカイダらテロリストの手法と、その発想の根本においてなんら違わないからだ。

いったい、人の命と、「平和主義ごっこ」と、どっちが大事なんだ。
人の命をおもちゃにする権利は、親であろうと、だれであろうと、ないはずだ。

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 (敬称略)

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