星野JAPAN 1.1

その3

 

〜シリーズ

「北京五輪」

(1)

 

(July 07, 2008)

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■星野JAPAN 1.1〜シリーズ「北京五輪」(1)■

 

国内のプロ野球の試合と五輪のような国際試合とはまったく別のものであることを理解できない「自称野球通」の方々は、北京五輪野球日本代表(星野JAPAN)の戦略や選手選びを見て、見当違いの一喜一憂をしている。

 

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13日(水)19:00 _渡辺(ロ) vs. キューバ
14日(木)19:00 _ダルビッシュ(日) vs. 台湾
15日(金)19:00 _岩隈(楽) vs. オランダ
16日(土)19:00 ▲和田(ソ) vs. 韓国
17日(日)全チーム休
18日(月)10:30 ▲岩田(神) [or▲成瀬(ロ)] vs. カナダ
19日(火)18:00 _渡辺(ロ) vs. 中国
20日(水)19:00 _岩隈(楽)[or捨てゲーム] vs. 米国
21日(木)全チーム休
22日(金)準決勝 10:30 or 18:00 _川上(中)[orダルビッシュ(日)or▲和田(ソ)or岩隈(楽)]
23日(土)10:30 3位決定戦
18:00 決勝 _ダルビッシュ(日)[or▲和田(ソ)or岩隈(楽)]

 

 

 

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シーズン中の成績がイマイチ(7月5日現在、6勝4敗、防御率4.55)の渡辺を第1戦の先発に起用するのは、まさに国際試合の発想であって、「この試合は負けてもいいから、大崩れせずに6回ぐらいまで投げてくれれば、それでいい」という意図である。

右下手投げの渡辺は、左打者の少ないキューバに強いはずだ。2006年WBC本大会決勝では、3回4安打3失点とキューバに打ち込まれているが(日本野球機構Web 2006年3月20日「2006年 WORLD BASEBALL CLASSIC 試合結果(決勝)キューバvs.日本」)、国際経験が豊富なので(負けてもいい試合なら)「なんとかしてくれる」と期待できる。

 

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逆に、岩隈は2008年のシーズン中の成績はよいものの(7月5日現在、12勝2敗、防御率2.07)、アテネ五輪本大会ではメンバーに選ばれながら体調不良でオランダ戦の1試合、1回2/3しか登板しなかったので(しかも3安打4四死球3失点、ボーク1。野球日本代表公式サイト2004年8月16日「オリンピックアテネ大会 試合結果 対オランダ戦」)、国際経験はほとんどなく、プレッシャーのかかる第1戦の先発も、また、第1戦のキューバ戦を日本が落とした場合の第2戦の先発も、とても任せられない。

同じオランダ相手にまた岩隈が先発することなどあるのか、と思われるかもしれないが、「国際経験豊富な味方のエースが最初の1勝をあげてくれるまで待つ」とすれば、オランダ戦に使わざるをえない。アテネ五輪のときは、まだコナミカップアジアシリーズ(日本野球機構Web 2007年「KONAMI CUP アジアシリーズ 2007」)が始まっておらず、日本球界のボークの基準が国際化されて(諸外国に合わせて変更されて)いなかったので、岩隈は国内基準の「二段モーション」の投球フォームで五輪に出てボークを取られてKOされたが、今回はそういう心配はないだろう。

 

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●理想は高校野球!?●

上記の『読売ウィークリー』の予測記事(プロ野球ジャーナリストの務台達之)は、星野がアジア予選を、ホームランバッター(大砲)に頼らず、盗塁、バントなどの機動力を重視した「スモールベースボール」で勝ち抜いた理由を、「日本には大砲が少ないから」としている。つまり、12球団の四番打者はほとんど外国人選手で、日本人には本塁打を量産できる選手がほとんどいないので、そこで星野は仕方なく機動力野球を選んだ、というのだ。

 

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とんでもない。たとえ各球団で四番を務める外国人選手が日本に帰化してくれたとしても、彼らが星野JAPANに選ばれることはない。なぜなら、どうせ彼らは強豪相手の国際試合ではホームランなどほとんど打てないからだ。

 

五輪本大会には米大リーグ(MLB)のメジャーリーガーの出場が禁止されているため、米国代表、カナダ代表の主力選手はマイナーリーグの3A、2Aクラスの選手だ。そして、日本のプロ野球で三番、四番、五番を打てる強打者であれば、3A、2Aクラスの投手なら、3試合10打席ぐらい対戦すれば、3安打(うまく行けば1本塁打)ぐらいは打てるだろう。1回目、2回目の打席で球筋を読みそこなって打てなかったとしても、3〜4打席目までには球筋を読めるようになるからだ。

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ところが、国際大会では、同じ投手とそんなに多くの打席で対戦するわけではない。多くて3打席、たいていは1〜2打席だ。つまり、球筋が読めるようになる前に大会は終わってしまうので、日本の強打者陣が、3A、2Aクラスの投手を次々に繰り出す継投策で完封されることはありうる。現に2004年アテネ五輪本大会準決勝で、長嶋JAPANは豪州代表の3Aクラスの投手たちに完封されている(野球日本代表公式サイト2004年8月24日「オリンピックアテネ大会 試合結果 準決勝 対オーストラリア戦」)。

 

 

 

 

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【高卒後プロ入りした1年目に、1軍の先発投手としてはほとんど通用しなかった、元巨人の桑田真澄は(2年目からは先発投手のエースとして大活躍したものの)、「1年目は、(当時の阪神の四番のランディ・バースなど)各球団の主力打者は第2打席まではなんとか抑えられたが、(試合に勝つために)だいじな第3、第4打席になると必ず打たれた」と述べている(2008年6月28日放送のNHK『NHKアーカイブス』)。つまり、「まだ1軍で通用しないレベルの高卒ルーキーでも、日本の強打者を2打席ぐらいは抑えられる」のだから、ラミレス(巨人)やウッズ(中日)が星野JAPANの四番になっても、五輪の米国戦やキューバ戦でホームランを打つことは期待できない、ということになる。】

 

 

 

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結局、A代表の参加する国際大会では、優勝のかかった重要な試合は、高校野球のような試合になる。つまり、少ないチャンスを機動力を使って確実に得点に結び付け、それを堅い守備で守り抜くような試合をせざるをえないのだ。

現に星野JAPANが五輪本大会出場を決めたアジア予選のもっとも重要な試合、韓国戦は「4-3」の1点差ゲームになり、日本と違ってエラーをした韓国が負けている。

日本が最終的に本大会を出場を決めた台湾戦でも、星野JAPANは最終的に10点取っているものの、一時はリードを許し、同点スクイズを決めたあと、台湾投手陣の混乱に乗じて、短打を連ねて大量点を取ったにすぎない(野球日本代表公式サイト2007年12月3日「アジア野球選手権2007(北京オリンピックアジア予選)試合結果」)。

 

 

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「日本代表!!」と聞くと、日本を代表する強打者が大勢集まって、外国チーム相手にガンガン本塁打を打つのだろう期待する「ナイターでビール」世代が少なくないようだが、そんな試合は……相手が中国やオランダならともかく……米国、キューバ、韓国との試合ではまず期待できない。

 

 

 

 

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A代表は国家の威信を背負って短期決戦を戦うので、勝つことが至上命題であり、「ファンを魅了する野球」などやっている余裕はない。

2006年のWBCの一次Lアジアラウンドを観戦した米国人記者が「米国の高校生レベル」と酷評した中国代表との試合でさえ、5回を終わって「0-0」である可能性もある(2006年WBC一次Lの中国戦は、4回を終わって「2-2」、最終的には「18-2」で日本の8回コールド勝ちだった。日本野球機構Web 2006年3月3日「2006年 WORLD BASEBALL CLASSIC 試合結果(一次リーグA組)中国vs.日本」)。

だから日本代表選手の華々しい打棒を見たい方々には、五輪本大会では、対中国戦の後半を見逃さないように、とご忠告申し上げたい。

(^_^)

 

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●山本浩二コーチ●

尚、星野JAPAN最大のの弱点は山本浩二守備走塁コーチだという説があるので、それについてひとこと。

 

2006年、まだ日本プロ野球組織(日本野球機構、NPB)が北京五輪日本代表監督を決められずにいたとき、「早く代表の監督、コーチを決めないと、アジアや北中南米のライバル国の選手の情報収集が間に合わない」と焦るアマチュア球界が、代表監督に推したのは山本浩二だった、という事実がある(日本代表は、プロ野球界だけでなく、アマも含めた日本球界全体の代表なので、その監督人事には、アマ側も発言権がある。スポーツニッポン2006年5月24日付1面「北京五輪 野球日本代表『山本浩二監督』急浮上 -- 長船編成委員長打診」)。結局、代表監督は星野に決まったが、星野がアマ側が推していた山本をコーチ陣に加えたことの意味は大きい。

 

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アテネ五輪日本代表では、巨人で優勝経験のある長嶋茂雄監督が、監督経験のない3人のコーチを選んだため、長嶋本人が五輪前に急病で倒れると同時に「監督経験のある指揮官不在」に陥り、結局五輪本番で金メダルを逃した(とくに、監督経験のない中畑監督代行が「捨てゲームを作る」という英断を下せず、「全試合勝ちに行く」という当初の方針を途中で変えられなかったのが痛い)。日本球界にはこの苦い経験があるのだから、星野は万一自分が倒れても自分に代わって監督を務められる、監督経験のある者をコーチにする必要があった。

 

 

 

 

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星野は、山本のほか、福岡ダイエーホークスで監督経験のある田淵幸一も首脳陣(ヘッドコーチ兼打撃コーチ)に選んでいるが、田淵の監督としての成績は惨憺たるもので、とても監督代行は務まらない。その点、広島東洋カープで通算10年の監督経験と1回の優勝経験を持つ山本は監督代行に最適だ(とアマ側は思っているはずだ)。山本は(田淵もそうだが)大学時代からの星野の盟友で、お互いの考えがよくわかっているからコーチにもいいだろう。

 

問題は「守備走塁コーチ」という役割にある。山本は現役時代は外野手だったので、相手チームの打者に応じて内野手の守備位置の変更を指示することができない。だから、2007年のアジア予選では、代表チームの主将でもある宮本が内野手の守備位置を指示した。『夕刊フジ』の江尻良文編集委員などは、この点を指摘して山本は守備コーチにふさわしくない、と酷評する(『サンデー毎日』2008年6月22日号 p.p 130-131 「北京真夏の悪夢か 『シーズン0勝』上原頼みで予選落ちもある『星野ジャパン』」)。

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しかし、星野は山本が内野手の守備位置を指示できないことは織り込み済みで、事前に「宮本は首脳陣の1人(事実上のコーチ兼任)」と公言していた。だから、江尻のように宮本がコーチ役を務めたことをもって「山本はダメだ」と鬼の首でも取ったように騒ぐのは筋違いだ。

 

たしかに、走塁コーチとしても経験のない山本が「守備走塁コーチ」として三塁側コーチャーズボックスにはいることを危険視する意見は、上記の直木賞作家の海老原を始め、多々あった。たとえば、監督のサインを走者に伝える際にミスが出るのではないか、といった指摘である(『日刊ゲンダイ』2007年11月26日「山本三塁ベースコーチを切れない星野の温情が命取りになる」)。

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しかし、山本は、アジア予選の台湾戦では三塁コーチとしてスクイズのサインを出して成功させている。また、その後も「采配のカンを鈍らせたくない」と考える星野、田淵、大野とともにプロ野球2軍のウェスタンリーグの試合で何試合か首脳陣を務め、星野監督のもと、コーチとしてサインや指示を出す「実戦練習」を繰り返している(デイリースポーツWeb版2008年6月28日「悔しいんや! 星野監督初黒星」)。

 

だから、「山本浩二が(三塁)コーチだったから負けた」という事態は、たぶんない。

 

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●最大の敵は怪我●

最大の問題はむしろ「内野守備コーチ兼任」の宮本が五輪開会前に大怪我をした場合だ。怪我を理由に宮本をはずすと、内野守備コーチがいなくなり、怪我に目をつぶって宮本をメンバーに選ぶと、二塁手・遊撃手の控えが、外野手兼任の荒木1人だけになってしまう。

 

 

 

 

 

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宮本の所属するヤクルトの本拠地である神宮球場は人工芝なので怪我をしやすいし、現に彼は2008年シーズン中にも怪我で欠場したことがある。

 

『サンデー毎日』は、2008年シーズン開幕後、星野JAPANの候補選手のなかに怪我人が続出していることを指して、五輪本大会で「予選落ち(一次L敗退)もある」などと茶化したように述べているが(『サンデー毎日』2008年6月22日号 p.p 130-131 「北京真夏の悪夢か 『シーズン0勝』上原頼みで予選落ちもある『星野ジャパン』」)、茶化している場合ではない。怪我人が多いのは、ドーム球場を含め、人工芝の球場が多すぎるからだ。

 

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【広島、阪神に在籍して連続試合フル出場の世界記録(904試合)を樹立し、その後も更新中(2008年7月6日現在)の金本知憲外野手は、在籍した2つの球団の本拠地がともに天然芝球場だったため、からだの消耗が少なかったことが幸いした、と考えられる。】

 

 

 

 

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この人工芝の弊害に、MLBはいちはやく気付き、1990年代に次々に新設された、グランドが人工芝のドーム球場はいまはほとんど球団本拠地ではなくなり、天然芝の球場が主流になっている(産経新聞2005年3月31日付「メジャーリーグ:さらば人工芝野球 『本物』が戻って来た」によると、MLB30球団のうち27球団の本拠地は天然芝)。

他方、都心の一等地に「雨の日に使えないイベントスペース」「コンサートや展示会に転用できない土のグランド」を構えることを嫌がる日本の球場オーナーたちは、人工芝の球場を天然芝に戻そうとしない。このため、日本の多くの野球選手の足腰が、人工芝の下にある硬いアスファルトの影響で、すっかり傷付いて故障がちになってしまっている(報知新聞2006年9月30日付「滝鼻オーナーにインタビュー『東京ドーム 屋根外し天然芝に が巨人の理想』」)。

 

 

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その典型が、老朽化した東京ドームの硬い人工芝に二度もからだを打ち付けて重傷を負って、俊足から鈍足に変わってしまった、巨人の高橋由伸外野手だ(報知新聞前掲記事)。彼が広島か阪神に在籍していれば、いまより数段偉大な選手になっていただろうに、と悔やまれる(おそらく彼はドームの人工芝に痛め付けられたせいで北京五輪本大会に出られない)。

 

星野JAPANの候補選手にやたらに怪我人が多いのは、必ずしも選手個人の問題ではない。これは、星野JAPAN以後も、日本球界全体にずっと付いてまわる問題なのだ。

マスコミには、茶化すより、もっとだいじな仕事があるはずだ。

(>_<;)

 

【お知らせ:佐々木敏の小説『天使の軍隊』が2007年4月26日に紀伊國屋書店新宿本店で発売され、4月23〜29日の週間ベストセラー(単行本)の 総合10位(小説1位)にランクインしました。】

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 (敬称略)

 

 

 

 

 

 

 

 

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【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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