タイブレーク制

は日本の陰謀?

イ・スンヨプの謎

その3

 

〜シリーズ

「北京五輪」

(3)

 

(Aug. 04, 2008)

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■イ・スンヨプの謎〜シリーズ「北京五輪」(3)■

 

北京五輪野球「タイブレーク制」導入は日本の陰謀か。また、2008年4月に絶不調で2軍落ちし、7月に1軍復帰して本塁打を打ったイ・スンヨプ(巨人)が北京五輪野球韓国代表チームに参加するが、彼は日本代表(星野JAPAN)の脅威になるのか。

 

 

 

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●こわいのはバントだけ●

 

もしも筆者が韓国代表チームの監督なら、北京五輪本大会の日本戦(とカナダ戦)では、イ・スンヨプをスタメンからはずす。

 

あるいは、万が一スタメンで出す場合でも、彼にはバントをしてもらう。ノーアウト(無死)で一塁に走者がいる場合の送りバントや、無死または一死で走者が三塁にいる場合のスクイズは当然だが、走者がいない場合でも、彼にはセフティバントを命じたい。日本の三塁手が、国際試合慣れした宮本慎也(ヤクルト)ではなく、村田修一(横浜ベイスターズ)や中島裕之(埼玉西武ライオンズ)である場合は……日本人にはイ・スンヨプがセフティバントをするというイメージがまったくないだけに……案外成功するのではあるまいか。

 

そうなった場合、日本内野陣があわててエラーをしては困るが、彼のバントそのものは、なんとなく見てみたい気もする。

(^^;)

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●おびき出し作戦●

さて、北京五輪を終えて巨人に戻ったあと、2008年シーズンの後半戦でイ・スンヨプはどのような「活躍」を見せるであろうか。

 

これを予測するうえで、興味深かったのが、2008年7月29日の「広島対巨人」戦における、広島のマーティ・レオ・ブラウン監督の投手起用だ。

 

七回表巨人の攻撃中、無死一、二塁の好機に、打順が九番(投手)にまわると、原監督は、代打に左打ちの亀井義行を送った。すると、ブラウン監督は、左打者を抑えるにふさわしい左投手がいたにもかかわらず、敢えて左打者に不利とされる右横手投げの梅津智弘を救援投手としてマウンドに送り出した(この時点で、亀井がバントで走者を二、三塁に進めたあと、左打者のイ・スンヨプが代打で出て来ることが予想された。理由は後出)。

 

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結局、亀井は、バントの構えはしたものの、バントはせず、レフトフライに倒れて、一死一、二塁となった。

マウンドには左に弱いはずの梅津がおり、打順は一番、この日3打数0安打2三振の鈴木尚広にまわっている。そして、巨人は韓国のTV局から多額の放送権料をもらっている。となると、原監督は、ここで左打ちのイ・スンヨプを代打に出さないわけにはいかない。

そして、彼が鈴木尚広の代打で出て来た。しかし、ブラウン監督は、梅津を左投手と交代させることはなく、続投させた。

 

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梅津の広島カープの先輩には黒田博樹投手(現ロサンゼルスドジャース)がいる。黒田は既述の如く、2006年4月にイ・スンヨプから連続三振を奪っており、そのときの配球データは確実に広島球団に蓄積されているはずだ。

 

そして、案の定、このときの梅津も、かつての黒田と同じように、膝元の変化球と外角高めの速球を左右に投げ分けてイ・スンヨプを三振に仕留めた(Yahoo!プロ野球 - 2008年7月29日「広島vs.巨人 成績」)。

 

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とすると、巨人と対戦するチームは、イ・スンヨプを抑えるために左投手を出さないほうがいいだろう。なまじ左投手を出すと、原監督は「左対左」を口実にイ・スンヨプを引っ込めて、たとえば二岡のような、力のある右打者と替えてしまう恐れがあるからだ。

 

上記のブラウン監督の采配のように、巨人戦には、わざと右投手を多めに起用して、なるべく多くイ・スンヨプを打席に立たせて、彼に三振の山を築いてもらったほうがトクではないか。

 

【日本語の俗語では、こういう選手のことを「安全パイ」と呼ぶ。】

(^^;)

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この「おびき出し作戦」は、当然、星野監督にも参考になる。

すなわち、イ・スンヨプを抑えるには左投手は必要ないのであり、「日本対韓国」戦の日本のピンチで、マウンドに右投手がいて、イ・スンヨプに打順がまわった場合に、星野監督が敢えて右投手を続投させたり、右投げの救援投手を投入したりする可能性は当然ある。

 

だから、オリンピックをTV観戦する日本の野球ファンの皆さん、たとえ星野監督が韓国戦でそういう采配をしても、けっして「ほしのーッ、ダメだー!」「○○を引っ込めろー!」などと思ったり怒鳴ったりしないように。

(^_^)

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●日本の陰謀?●

話は変わるが、国際野球連盟(IBAF)は、北京五輪野球参加国すべてが代表選手を発表したあとの2008年7月25日、北京五輪本大会開幕のわずか2週間前になって突然、本大会のルールを改正してタイブレーク(TB)制を導入すると発表した。

これは、延長10回を終えて同点の場合、攻撃側は10回終了時点のオーダーから任意の打者を選んで、その直前の打順の2人がその順番に出塁した状態、つまり無死一、二塁の状態で攻撃を開始する、というものだ。目的は、延長11回以降に得点のはいりやすい状況を作って、試合時間を短縮し、TV放送時間枠の設定をやりやすくすることにある(中日新聞Web版2008年7月27日「五輪野球『タイブレーク制』導入 星野監督怒った」)。

 

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星野JAPANの場合、10回終了時点のオーダーが「九番川崎宗則(福岡ソフトバンクホークス)、一番西岡剛(ロッテ)、二番宮本慎也(ヤクルト)、三番青木宣親(ヤクルト)」であって、日本が先攻なら(日本は、本大会一次Lのキューバ、台湾、カナダとの試合では先攻)、九番と一番を塁に出して、二番にバントさせて、一死二、三塁にしてから攻めるだろうし、後攻でも(点差が2点以内なら)同じようにするだろうし、他のチームもそうするだろう。

 

 

 

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この場合、内野のバントシフトがカギになる。もし、星野JAPANが代表選手24名を発表する前にTBルールの導入が発表されていたら、星野監督は三塁手としての守備も、打者としてのバントもあまりうまくない中島裕之(西武)をはずし、代わりにその両方が得意な井端弘和(中日)を(小誌の事前の予測どおりに)選んでいたのではあるまいか(中島は7月31日のオールスター戦でも三塁手としてエラーをしている)。選手のモチベーションの問題があるので、いまさら井端と交代させるわけにはいかないだろうが、気になる。

 

 

 

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ただ、北京五輪のTBは、日本の社会人野球のそれのように「一死満塁」から始めるのでなく、「無死一、二塁」から始めるというところがミソだ。「一死満塁」方式だとバントをする必要がないので、バントの下手なチームも不利にならないが、「無死一、二塁」ではバントの失敗が命取りになる。

 

 

 

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また、ソフトボールのように「無死二塁」から始めるのでなく「無死一、二塁」つまり、走者2人から始める点も重要だ。星野JAPANでは、上記のように、川崎、西岡、宮本、青木、荒木雅博(中日)など俊足でバント(スクイズ)のうまい選手が多く、しかも彼らの打順が3〜4人連続すると考えられるので、俊足の選手で塁上を埋めることができ、先攻なら大量点も狙えるが、他のチームはそうはいかない。

 

 

 

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ちなみに、2006年WBCの各チームの盗塁数は、日本13、米国1、キューバ3、カナダ2、韓国2、台湾3なので(NPB Web 2006年3月20日「'06 WORLD BASEBALL CLASSIC 国別チーム成績」)、「足」がものをいう方式なら、明らかに日本に有利である。これが、もしも「無死二塁」方式なら、俊足の選手は1人いればよいので、他チームにも平等だったはずだ。

 

 

 

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実は、TB方式を(2008年4月に)IBAFの会議で紹介したのは、IBAF第一副会長でもある全日本アマチュア野球連盟会長なので(朝日新聞Web版2008年7月29日「タイブレーク、日本が紹介? 野球連盟『まさか五輪で』」)、もしかすると、このルール改正を考え出したのは、五輪の日本向けTV放送権を取り扱う、日本の某大手広告代理店ではあるいまいか。

 

 

 

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五輪野球には大リーガーが出ないので、米国やカナダや(キューバを除く)中南米諸国は関心がないし、欧州では元々野球は人気がない。とすれば、五輪野球中継の最大の「市場」である日本には、相当な発言力があるはずだ。

そもそも(人気競技同士が互いに裏番組にならないようにするために)「放送時間枠の設定」に苦労する国は、もっとも試合に時間のかかる野球を含むあらゆる競技にエントリーしている日本ぐらいしかないわけで、日本人以外にこんなことを考え出す者がいるとは思えない(米国で人気の水泳と陸上は競技実施日がほとんど重ならないし、米国人は卓球、柔道、サッカーにはあまり関心がないが、日本はこれらすべてに加えて体操、バレーボール、レスリングにまで関心がある)。

 

 

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野球のタイブレーク方式は、サッカーで言えばペナルティキック(PK)戦である。国際サッカー連盟(FIFA)主催試合のアジア向けTV放送権も扱う某広告代理店が考え出したとしても、不思議ではない。

 

 

 

 

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いや、待てよ。

星野監督は、当初は日本代表の投手陣は11人と言っていた。これは、TB制がなく、事実上「延長回数無制限」で大勢の投手が必要になりそうだったアテネ五輪本大会で投手コーチを務め、今回星野JAPANでも同じ役を務める大野豊コーチの意見でもあったはずだ。

 

 

 

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しかし、星野監督は、TB制導入発表前の7月7日、突如「投手を10人にするかもしれない」と言い出している(デイリースポーツWeb版2008年7月8日「先発5人→4人へ…星野監督が明かす」)。

理由は、アテネ五輪本大会のときの記録を見直したら11人のうち2人はほとんど投げていなかったから、とされているが(デイリースポーツ前掲記事)、それはたまたま、アテネで「延長18回」まで続くような試合がなかったから、そうなっただけのことだ。TB制の導入がなければ、投手が11人でも足りない事態が北京でもありえたのに、星野監督はなぜTB制導入発表前の7月17日に「投手10人」の陣容を決定して発表したのか。

 

 

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7月17日に投手10人を含む24人の最終メンバーを発表した際、星野監督は、新井貴浩(阪神タイガース)ら野手に怪我人が多いので野手を1人増やすため投手を1人減らした、という趣旨の説明をした(スポーツ報知Web版2008年7月17日「星野ジャパン、新井・稲葉故障で野手枠1人増へ」)。が、新井の腰痛が深刻であることが判明したのは7月14日であり(デイリースポーツWeb版2008年7月15日「新井、腰痛深刻…それでも『試合出る』」)、星野監督が初めて「投手10人」を口にした7月7日より1週間もあとだ。

 

 

 

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もしかすると、星野監督も事前に知っていたのか(つまり、井端を選ばなかったのは、井端の怪我などのほかの理由か)。

もしも事前に知っていながら「五輪の2週間前になって(突然)ルールを変えるなんて、おかしいにもほどがある!」などとマスコミの前で怒ってみせたのなら(中日新聞前掲記事)、彼は相当な役者だ。

 

 

 

 

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【ちなみに、韓国、台湾、キューバも投手を10人にしているので、彼らも(IBAFや某広告代理店から聞き出して)事前に知っていた可能性がある。他方、米国、カナダの投手は11人なので、こちらは事前に知らなかったと見てよかろう(IBAF Web 2008年7月「2008 Olympic Games」)。】

 

いずれにせよ、この日本の陰謀(?)のお陰で、韓国の試合が延長11回までもつれこんだ場合には、イ・スンヨプのスクイズが見られる可能性が高くなった。

(^^;)

 

【お知らせ:佐々木敏の小説『天使の軍隊』が2007年4月26日に紀伊國屋書店新宿本店で発売され、4月23〜29日の週間ベストセラー(単行本)の 総合10位(小説1位)にランクインしました。】

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 (敬称略)

 

 

 

 

 

 

 

 

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【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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